東京高等裁判所 昭和54年(行コ)50号 判決 1980年7月31日
川崎市川崎区渡田四丁目八番二四号
控訴人
桜井勝男
右訴訟代理人弁護士
篠原義仁
岩村智文
児嶋初子
杉井厳一
根本孔衛
畑谷嘉宏
村野光夫
川崎市川崎区榎町三-一八
被控訴人
川崎南税務署長 竹下勉
右指定代理人
一宮和夫
佐藤恭一
鴨下英主
渡部康
吉岡光憲
右当事者間の更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人が昭和四五年一月三一日付で控訴人に対してなした控訴人の昭和四二年分及び昭和四三年分所得税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、昭和四二年分については総所得金額一〇〇万円を超える部分及び賦課決定を、昭和四三年分については総所得金額一〇五万円を超える部分及び賦課決定を取り消す。訴詮費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び立証は、次に付加訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決九枚目表初行「経続」を「継続」に改める。
二 二五枚目裏八行目の次に左のとおり加える。
「2の2 被控訴人のなした本件推計の基礎となった同業者の範囲は広汎に過ぎ、合理性を欠く。すなわち、推計の基礎たる同業者の範囲は、控訴人と仕入金額において近接し、かつ、近接地たる同一行政区・同一税務署管内の同業者に限られるべきであるにも拘らず、地域・事業規模ごとの特性を無視してかかる広汎な同業者を加えたことは相当でない。」
三 二七枚目表五行目の次に左のとおり加える。
「4 本件係争年分の控訴人の所得金額につき、もし、被控訴人がその推計を合理的範囲の同業者の資料のみに基いてした場合には、その推計結果は控訴人の申告額と大差ないものになる。このような場合には、控訴人の申告額を真実と認めるのが自主申告制度の趣旨に合致する。」
四 二八枚目裏五行目の次に左のとおり加える。
「2の2 反論2の2について
推計の基礎とする同業者は、極めて少数となるのは相当でなく、控訴人の営む事業所と立地条件・業態において近似する川崎・横浜両市内のいわゆる京浜地帯所轄税務署管内のそれとし、仕入金額において控訴人のそれのおよそ二分の一倍から二倍の者を対象としたのは合理的である。」
五 二九枚目裏七行目の次に左のとおり加える。
「6 反論4について
控訴人の申告が全く根拠を欠くものである以上、たとえ、或種方法による推計結果に申告額とたまたま類似するものがあるからといって、控訴人の申告額が正確である裏付けとならない。」
六 四九枚目裏三行目、五〇枚目表五行目の「46・7・19」をいずれも「46・7・12」に改める。
七 控訴人は、甲第一三、第一四号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人は右甲号各証の原本の存在及び成力を認めると述べた。
理由
当裁判所も、控訴人の本訴請求のうち、原審において請求棄却された部分は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次に付加、訂正するほか。原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。
一 原判決三四枚目表末行から同裏四行目までを「課税標準の調査に当たり、被調査者に対し調査理由を告知することは法律上要求されるものではないから、被控訴人係官が控訴人に調査理由を関示しなかったとしても、その故に推計課税が違法になるものではない。」。また、控訴人は当審における当事者本人尋問において、控訴人は本件係争年分の所得税の確定申告当時川崎地区建設組合連合会に加入し、これら申告につきその指導援助を受け、その際右各年分の所得にかかる原始記録等の資料を同連合会事務局長小寺邦明に預けていたところ、昭和四四年七月一五日付修正申告書の提出をめぐって同連合会との間に紛議を生じ、ほどなく同連合会を脱退したが、前記資料等はなおその返還を受けることができない旨供述するが、右供述は、原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証に照らしにわかに措信できないばかりでなく。控訴人が被控訴人係官の前記調査に際し、これら資料の所在を告げるなどしたことを認めるに足りる証拠はないので、たとえ、控訴人の右供述どおりであったとしても、本件推計課税の必要性を左右するものではない。」に改める。
二 三五枚目裏六行目「指示)」の次に「(原審証人剣持哲司の証言により成立を認める乙第一一号証、同小池輝明の証言により成立を認める乙第一二号証及び右両名の証言によれば、横浜中税務署長にも同趣旨の通達が出されたが、同署管内には右基準該当者がなかったことが認められる。)、」を加える。
三 三六枚目裏八行目の次に左のとおり加える。
「推計の基礎となる同業者数が少い場合、推計の合理性を充足しないものというべきところ、前掲証拠によると、控訴人の所轄被控訴人税務署管内だけでは到底合理的といえる数の同業者が得られないことが明らかであり、控訴人の業種の場合、その顧客・作業場所等が所轄税務署管内に限られ、あるいはこれを主体とするとはいえないので、その隣接地たる川崎北、鶴見両税務署管内、また、被控訴人税務署管内、また被控訴人税務署管内に近接し、同管内と同じく臨海工業地帯に属し、その人的あるいは建造物等の構成等において類似性を有する鶴見、神奈川、(横浜中)、横浜南各税務署管内(以上の点は公知の事実に属する。)の同業者をも対象に加えたことは、より高度の合理性を保障するものということができ、また前記(1)(2)の条件を付したことも合理性をもつものといえる。また、控訴人は、本件係争年分の控訴人の申告所得金額が合理的な方法による推計結果と大差ないものとなった場合は、推計課税によらないで、控訴人の申告額を真実と認めるべき旨主張するが、控訴人の主張する推計方法は、対象たる同業者の数が僅少となり、被控訴人のとった前記推計方法に比し、より合理的であるということができず、しかも、被控訴人の右推計結果が控訴人の申告額と顕著な差異を有することは後述するとおりであるから、控訴人の右主張は採用しない。」
よって、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 井田友吉 裁判官 高山農)